7月4日〜17日の約2週間、秋田市新屋にキャンパスを構える秋田公立美術大学(通称:秋美/アキビ)の学生がuzz.cafe(ウズズカフェ)という期間限定カフェをオープンさせるという情報を耳にし、遊びに行ってきました。
美大生が運営?期間限定?ウズズってなんだろう?
色々と疑問が浮かぶ中実際に覗いてお話を伺ってみると、このカフェはとある一人の学生の取り組みに興味を持った美大生30人程が集まって運営しているものであること、そしてこのカフェプロジェクト自体がその方の作品でもあることが分かりました。
そのとある学生というのが、カフェの代表を務める畠山明莉(はたけやま あかり)さん。
ウズズカフェ代表 畠山明莉さん(画面向かって右側)
新潟出身の彼女は美大入学当初「秋田ってつまらないな・・・」と感じていたようですが、あるときから「そうじゃない」と考えるようになったようです。
どんな想いで今回のカフェを運営しようと決めたのか、彼女を突き動かしたきっかけはなんだったのか。色々とお話伺ってきました。
(聞き手・文:カマダダイスケ)
uzz.cafe(ウズズカフェ)とは?
── 忙しいところありがとうございます。今回のカフェはどういったキッカケで開催されたものなんでしょう?
畠山 はい。私たちが通っている秋田公立美術大学のある新屋という場所は物質的な豊かさはあまりないんですが、それぞれの人が持っている哲学だったり、何かを巻き起こそうとする行動が凄くパワフルで、それは都会にはないくらい刺激的だと感じたんです。
でもそういったものが今はアンテナを張っている一部の人に消費されて消えていく。せっかく面白いものがあるのに(もったいない)と思いました。
そういう見る人をウズウズさせるムーブメントみたいなものを、まとめて紹介する場所を作りたいなと思ったのがこのカフェプロジェクトを始めたキッカケです。
畠山さんを変えたお気に入りの「カフェ」との出会い
── 「カフェ」という形を選んだのには何か理由があるんですか?
畠山 楢山(秋田市内の地名)にキトキトというカフェがあるんですけど、そこが凄く好きで。そのお店に行ったとき「わー!(カフェいい!)」となったんです。
それまで私は自分の将来のこととか全く考えてなかったんですけど、そのお店を見て自分もカフェやりたいなぁって思うようになりました。それで今年の3月くらいから周りの友達に「私将来カフェやりたい」という話をするようになっていって。
── うんうん。
畠山 私は現代アートを中心に行う専攻なんですが・・・正直あまりハマってなくて(笑)。課題を与えられても「よく分からないなぁ・・・」とやらされている感じになってしまっていたんです。
そうしたら周りの友達が「好きなことやったらいいじゃん」と言ってくれて。私の好きなことってなんだろう・・・と考えた時に最近カフェに興味あるなと。そこから「カフェを作品にしよう」というのを固めていきました。
── なるほど。そういう経緯だったんですね。
畠山 はい。それでそんな話をするようになってから学生課の方にファンド(資金調達)の紹介を頂いて「そこに応募してみない?」という話を頂いてプレゼンに向けて企画を進めるようになり。
その過程で今年の4月にあったもの×まちさんぽ(同地区のイベント)に「(カフェがやりたいんだったら)練習で出店してみない?」と2日間限定でカフェを開催させてもらったり、色々と繋がっていった感じです。
インターン経験からヒントを得た「カフェ×イベント」の構想
── このウズズカフェというのは「カフェ」と「イベント」の2つが大きな柱なんですよね。カフェにイベント要素をくっつけようと思ったのは何かキッカケがあったんですか?
畠山 カフェを作品にすると決めてから、教授に東京のイベント開催も行うカフェに「インターンに行ってみたらどうだ」と提案頂いたんです。
── へぇ〜、それはイベントのお手伝いということですか?
畠山 そうですね。正直行く前は「イベント?私カフェやりたいだけなんだけどな・・・」と思っていたんですが(笑)。実際に行ってみたら「これはすごい楽しいぞ」となったんです。
その時のイベントは人形浄瑠璃だったんですが、スタッフも楽しめましたし、イベントに引き込まれる感じとか、それをお客さんとも共有している感じとか。その空間や達成感に凄く魅力を感じたんです。
uzz.cafe トークイベントの様子(7/10開催:純秋田産デザインの夜)
── なるほどなるほど。
畠山 それで、私たちの通う美大の周りでも刺激的なことは溢れている、でもそれをイベントスペースのような場所で開催するだけだと敷居が高い(興味を持ってもらいづらい)ので、元々やりたかったカフェと組み合わせることで窓口を広げられるんじゃないか、そう考えたんです。
美大生の作品展示・販売スペースとしても活用
雑貨やアクセサリー等を制作する大学内のサークル aruconnect(アルコネクト)
── 確かにカフェと併設していればグッと足を運んでもらいやすくなりそうですね。あとカフェ内で販売しているアクセサリーなどは美大生が作ったものなんですよね。
畠山 はい、今回はカフェ内に販売スペースを設けたんですが「こんなの作ってる学生いるんだね」とかお言葉をかけて頂いたり、美大が何をやっているのかというのをカフェを通じて観ていただけているなぁというのは感じました。
── 先ほど敷居という言葉が出てきましたが、普段はなかなかカフェを利用しないという地元のご高齢の方も今回のウズズカフェには興味を持ってくれていますよね。
畠山 そうですね。この今回使わせて頂いている建物は元々川口書店という地元の人にとって凄くゆかりのあるお店だったんです。でもずっと空き家のままで、入りたくても入れないという状況だったんですが、今回のイベントで入れるようになって「懐かしいなぁ」と言って頂いたり。当時を知る人は中を見れること、畳に座れることを凄く喜んでくれました。
カフェの一角。元々書店にあった本も飾られていました。
── うんうん。
畠山 でも正直それは全然意図していなかったことなんです。
新屋でカフェをやりたいなと思った時に前回のカフェをやった渡邊幸四郎邸(同地区の古民家)は設備的な問題で無理で、同じようなところがないかと探していたらここを貸していただけることになったという感じで。
だからそういうお声をかけて頂いたときは、嬉しいのはもちろんですが「あーそういう風に思ってくれる方もいらっしゃるんだなぁ」と驚きました。
畠山さんが新屋(あらや)にこだわる理由
畠山さんは現在4年生。就職活動も終えていて、卒業後は地元新潟の企業に勤める予定とのこと。でも実は就職後5年くらいを目処にまた新屋に戻ってきて、そのときはカフェをオープンさせたい、そんな展望をお話してくれました。
── 5年後にまた戻ってくると(笑)。その新屋という地域へのこだわりというのはどこから来るんでしょう?
畠山 うーん、なんていうのかな・・・。私は今の新屋の現状が悔しいんです。
歩いていても美大があるという感じが全然しないし、もっと他の美大の周りって何かこうビリビリするものがあるんですけど。このあたりはなんていうか、「ほわーん」としているというか(笑)。
── ほわーん(笑)。でも、なんとなく分かります。
畠山 この新屋という地域は、秋田市の中でも、川を挟んで橋を渡ってちょっと離れた場所にあるということもあって隔離されている感じはちょっとしていて。秋田市の中心部の大学に通ってる人からすると「あぁ、新屋住んでるんだ」とあまり良い意味ではなく思われることが多いんです。
畠山 ただその隔離されているというのは良い方向にも活かせると思っていて。美大の混沌とした雰囲気が漂う島というか、ここだけの文化が醸成されていくみたいな。そういう魅力をこれから作っていける可能性のある場所だと思うんです。
── なるほど。
畠山 私はもう卒業しますが、美大自体も今体制を整えていて、これからどんどん面白くなっていくという確信があります。そこと繋がっていけたらこの新屋で面白いことをやっていけるんじゃないかと、そんなことを考えていますね。
失敗も良い経験。学生のうちにやって良かった
── 前回と比べて規模も大きくなり大変なことも多そうですが、(畠山さんの表情を伺う筆者)やって良かったんじゃないですか?
畠山 ホントにやって良かったです。3年生ぐらいまでは何も自主的にやることなかったし、やろうよと声かけることはあっても企画倒ればっかりで(笑)。
人をまとめるような経験も高校までありましたが、今回はそのときのように顧問の先生がいるわけでもないし。今回も実際にやってみて人の動かし方だったり、体制だったり。もう少し考えないとだなぁ・・・と、凄く勉強になりました。
畠山 このカフェはあくまで私が始めたものにみんなが面白そうと集まってくれたもので、手伝ってくれた人へのバイト代等もありません。忙しくなれば「なんで私たちこんなに頑張ってるんだろう」のような気持ちに当然なるだろうし。そのあたりは、うーん、何て言うのかな・・・
── 人の巻き込み方、みたいな感じですかね?
畠山 そうそう。今回は30人くらいの美大生に手伝ってもらっているんですが、大人数でシフト組んで一人一人にやってほしいことを伝えながら進めることは、少人数で頑張るのと同じくらい、それ以上に大変なことなんだなと感じました。
他にも、うん・・・毎日5個ぐらいは失敗したなぁってことがあります(笑)。
── こんなに上手く廻してるんだから、全然そんなの失敗のうちに入らないと思いますよ。
畠山 いやー・・・(首を横に振る)。でも自分が思っているよりもみんなが一人一人考えて動いてくれて、それは本当に助かってます。
畠山 あと今回は期間限定のイベントに興味を持ってくれて足を運んでくれる方も多いと思うんですけど、やっぱりこれを日常にしていくとしたらまたちょっと違うんだろうなとも思うんです。なので(上手くいったとしても)調子に乗りすぎないようにしたいと思います(笑)。
美大のある新屋の街を刺激的な空間にしていきたい
── さいごに。将来新屋に戻ってきたときカフェをオープンさせるとしたら、どんなカフェにしたいですか?
畠山 そうですね。自分が関わった「美大のある新屋」に刺激的なことがなのはやはりツマラナイなと思うんです。
新屋でやる以上地域のためになるという効果もあるとは思いますが、やっぱり若者にも刺激がある、斬新な場所を作っていきたいと思っています。
落ち着ける住宅街にあるカフェというよりは、美大の近くにあるイケてる場所。まだすごいぼんやりしてますけど(笑)。
── いやいや、凄く良いと思います(笑)。
畠山 今回のカフェ、私が将来やろうとしているカフェが、他のカフェとどう違うのか。どういうところが強みなのか。そこはまだはっきりとしたものは見つけられてないんです。
なので今回のカフェで課題として見えた体制的なこともそうなんですが、どういう場所にしたいのか、そういうコンセプト的なところを主に考えていきたい。それを今後の研究課題にしたいなと思っています。
── なるほど、分かりました。また卒業までに期間限定でカフェをオープンさせる予定とのことなので、楽しみにさせて頂きます。今日はカフェでお忙しいところお時間頂きありがとうございました!
畠山 ありがとうございました!
おわりに
4月にカフェのみで2日間開催し、そして今回7月に「カフェ×イベント」で2週間限定開催させた畠山さん。
今後、年明け2017年2月の卒業展でも秋田市内でスペースを借りて、カフェ運営とイベント開催の実演を期間限定で行う予定とのことです。
「卒業後すぐにでも新屋でカフェ始めたらいいのに」とそそのかすと「まだ社会を知らないので・・・(笑)」とそのあたりは慎重な彼女ですが、いずれこの新屋の街に新しいムーブメントを起こしてくれること間違いなさそうです。数年後、彼女のカフェに遊びに行けることを心待ちにしてみたいと思います。
ウズズカフェは7月17日(日)まで開催中、近況はFacebookにて更新中です。
お近くの方はぜひ遊びに行ってみてください。
美大生みなさんが作り出す空間が、きっとあなたをウズウズさせてくれますよ。
それでは今回はこのへんで。