「年貢を納めて村民に?」
印象的なコピーでその名を知らしめたシェアビレッジ町村。日本の田舎の日常を美しく切り取った映像作品、augment5社のTrue North, Akita.。
「最近なんだか面白い動きが多く見られる気がする」。そんなこれらのプロジェクトに共通するのがいずれも秋田県の五城目町(ごじょうめまち)が舞台であるということ。
秋田の辺境地から感じられる変化が気になり色々調べてみると、これらの動きに共通して関連するとある施設の存在に辿り着きました。
その施設というのがBABAME BASE(馬場目ベース)。
五城目町で地元民に愛され続け、2013年に惜しまれつつ138年の歴史に幕を閉じた旧馬場目小学校。2001年に新校舎となったばかりのピカピカの廃校舎は、現在その振る舞いを変え、レンタルオフィス機能を兼ね備えた五城目町地域活性化センター(愛称:BABAME BASE)として生まれ変わっていました。
参考:BABAME BASE|五城目町地域活性化支援センター[旧 馬場目小学校]
人口わずか9800人余り※の五城目町。その地から感じられるザワザワとした良質な変化を予感させるエネルギー。もしやここが大きく関係している…?
そう思い施設担当者、五城目町役場まちづくり課の方にコンタクトを取りお話を伺ってみると「なるほど」と納得する結果に。秋田の片田舎に起き始めた確かな変化と、刺激的なムーブメントの理由の片鱗を感じることが出来ました。
(聞き手・文・撮影:カマダダイスケ)
※2016年7月末時点で9865人(参考:朝市と城のある町 五城目町)
決して無計画な訳ではなかった「新し過ぎる廃校舎」
── 今日はよろしくお願いします。それにしても本当に綺麗な建物ですね・・・!
五城目町役場まちづくり課 柴田さん(以下、柴田) あぁそうですかー!いやいや、わざわざ足を運んで頂きありがとうございます。
── ただ、新校舎になって10年余りで廃校となりましたよね?こう言ってはなんですが、なぜ建ててしまったんでしょう?
柴田 そうですね、良く言われるんですが当時旧校舎がもうどうしようもないくらい老朽化してしまったんです。国からタイミング良く補助金が出たこともあり、思い切って建てようとなりました。
施設の備品の説明をしてくれるまちづくり課 柴田さん
── なるほど、建て替えざるを得なかったんですね。
柴田 そういうことになりますね。それで当時は在校生が58人でして・・・。
秋田公立美術大学2年 ゆいまる(以下、ゆいまる) 58人!こんなに広いところにですか!?
1F 事業支援室周辺
2F 事業支援室周辺
2F 地域交流室(元は図書室)
体育館。この広さで1日1300円でレンタルが可能。
1F ふれあい交流室(元は給食室)
柴田 そうなんですよ。ただ学校施設の広さや部屋数に関しては国が基準を定めていまして、基本的にはそれを満たす最低限のところに合わせて建てているんです。生徒数に関係なく絶対作らなければいけない部屋もありますので。
── 絶対に作らなければいけない部屋、ですか。
柴田 例えば理科室とか音楽室、保健室とかですね。
── あ、なるほど。納得です。
理科室。シェアオフィスとして利用可能
音楽室。1日800円でレンタルが可能
保健室。近々この小学校の卒業生が入居されるとのこと!
改修に約2000万円。実はかなりお金のかかる廃校活用
柴田 あと学校施設だったので、現在のように事務所として使ってもらうには建築基準法や消防法の条件をクリアするために改修する必要がありました。大体2000万円ぐらい改修にかかりましたね。
── えぇ!2000万!?そんなにかかるんですか??
柴田 そうなんです。小学校施設というのは建築基準法上では特別な施設として扱われてまして、かなり基準が緩くできているんです。なのでほとんどの場合事務所としてそのまま使うことは難しいんですね。
ゆいまる どんなところを直す必要があったんですか?
柴田 例えばこれですね。小学校って昔、オープンスペースで作るのが一時期流行ってたじゃないですか?
── はい、流行ってましたね。
柴田 見ての通りこの建物もそうなんですが・・・これ、事務所として使うにはセキュリティ0じゃないですか。
改修前はこんな感じですり抜けられる状態
── た、確かに・・・(笑)。
柴田 そっちの部屋は今空いてますが、こんな感じで、元々オープンスペースだった場所には透明なアクリル版を加工して作ってもらった壁を追加しているんです。
今は基準をクリアするために開け閉め出来る壁を追加している
柴田 他にも各部屋から電気料金徴収するためのメーターの設置、火事の時煙を逃がすための窓の設置、等。基本的には基準をクリアするための改修にお金がかかっています。あとは光ファイバーを張り巡らせるための配管工事なんかもやっていますね。
入居企業との連携・コラボレーションで生まれ変わる五城目町の商品
── 県外の方や比較的若い方も多く、町に非常に良い刺激をもたらしてくれそうな魅力的な企業さんが入居されているように見えますが、実際のところそのあたりの効果はどうなんでしょう?
柴田 それは本当に目に見えて効果が出てきていますね。
例えばこちらのProduce Proさん。秋田市にある広告代理店さんで、ここには五城目出身のデザイナーさんなどに入居頂いています。
── はい、存じてます。
柴田 デザイン会社が入ってくれたというのは本当に大きくて。五城目には今までデザイン会社がなかったんです。
例えばこれなんかも(瓶詰めされたお菓子を手に取って)屋台でやきそば入れるようなプラスチック容器で昔は販売してたんですね。それがパッケージのデザインをしてもらったことで道の駅でバカ売れするようになりまして。
── あぁ、素晴らしいですね〜。
柴田 あとはこの黒い筒の・・・。
ゆいまる これは何ですか?(中を開けて)ん・・・木?
柴田 これは中身は秋田杉の組子のコースターなんですよ。
ゆいまる えーおしゃれ!可愛い!!
柴田 これもすごく評判が良いですね。町の課題は入居企業さんのお仕事になりえますし、Produce Proさんのようにデザインをやってくれることで他の会社や商品がより今までより目立つようになります。入居頂いている企業さんのおかげで非常に良い循環が生まれてきていますね。
冒頭で挙げたシェアビレッジの運営に携わるハバタク株式会社、augment5の子会社TRUENORTH株式会社(現在は移転)もここBABAME BASEにオフィスを構えている。
ハバタク株式会社 秋田オフィス
地域おこし協力隊の活動拠点でもあるBABAME BASE
事務室前にて。たくさんの写真が貼られていました!
柴田 この施設は五城目町地域おこし協力隊の活動拠点でもあるんです。現在「丑田、石田、柳澤、小熊」の4人いるんですが、彼女がその一人の石田さん。
五城目町地域おこし協力隊 石田さん(以下、石田) 石田です。よろしくお願いします〜。
── よろしくお願いします!地域おこし協力隊の皆さんは普段どんな活動をされているんですか?
石田 移住定住や六次産業化などの支援が主な仕事ですが、例えば柳澤は地元の企業さんだったり、キイチゴの栽培や営業、また農業や林業をされてる方の支援を主にしていて。最近だと今見ていただいた組子細工のパッケージングとか。助成金を申請してデザイナーさんに頼んだり、そういうのって職人さんだけではなかなか難しいじゃないですか。
丑田は人前に立って説明したり、町の魅力を広く発信する広報的なことをしてくれたり。多くの方に読んで頂いているこさけ!五城目というFacebookページを更新しています。私は地元高校や朝市plus+に関する取り組みの企画や運営をしたりしています。
── なるほどなるほどー。
石田 あと気を付けているのが「あの人たちは何か違うよね」という風にはならないようにするということです。ごじょうめ朝市大学という任意団体を立ち上げて今運営しているんですけど、イベントを企画して地元の方と積極的に繋がりを持つようにしたりとか、そういう動きにも力を入れていますね。
柴田 良くこういう取り組みの失敗例として、(よそから来た)若い人たちが勝手に盛り上がって地元の人たちを置いてきぼりにして距離が出来てしまって壊れてしまうというパターンがあるんですけど、石田はそのへんがとても上手なんですよ。
もともといる人たちとも良い関係を作りながら、若い人たちのやる気も引き出して、自然に盛り上がる環境を立ち上げるということを非常に上手くやってくれている。
対立することもなく、地元の人間に受け入れてもらいながら新しいことが出来ているんです。いやいや、ほんと来てもらってよかったですよ。
石田 あの、だいぶこそばゆいんですけど・・・(笑)。
五城目町の未来はどこを目指そうか、自分たちはどう生きようか。
一通り施設の説明や五城目町のイベントの説明をしていただいた後、柴田さんが施設の運営が始まった頃の話をしながらご自身の考えを少しお話ししてくれました。
柴田 一番最初の頃ね、ここの運営のこととか「今後どうやって五城目で生きていこうかね?」なんて話を入居されてるハバタクの丑田さんとお酒飲みながら話をしたことがあるんですよ。
── はい。
柴田 僕は男の子が一人いましてね。丑田さんも女の子が一人いるんだけども。ま、ちょっと「自分らの父ちゃんたちかっこいいことやっていたね!」っていう。そういう結果だけまず望んでいきましょうよと。そんな話をしたんです。
── あー、いいですね〜。
柴田 そう。それで子供達はなるべくいろんな人たちと出会ってもらって、外の世界も見てくれる子に育てようと。それで自分たちが老後困ったら、大きくなった子供達に助けてもらおうかなぁって(笑)。
いずれね、私は(子供たちは)外に出てってくれてもいいと思うんです。ただここで育ったから、今の自分があるんだねっていう。そういう風な思いで外で活動して、大きな成果出してくれるようであればいいかなぁって。
施設内のグラウンド。使われてない日は無料で利用できる
── うんうん。
柴田 地元のことを忘れないで、自分たちのお父ちゃんたち今五城目で苦しくなってるかもねと思ったらたまに遊びに来たりとか・・・あとお金くれたりとか!税金払ってくれたりとかさ!!
一同 あはは!!!(笑)。
柴田 だんだん地域の中だけで上手く循環していかなくなったことを、出ていった子供達にも気にしてもらえる。そういう環境を作ればおのずと上手く回っていくだろうなと。五城目はお米作ってる人たちもたくさんいて食いっぱぐれることはないだろうし。
そういう風な生き方していきたいね、というのが私は前提にありましてね。
自分は役所の人間なので役所のルールはルールなんですけど、個人として仕事のモチベーションはそういったところにあるんですよ。
少子高齢化全国一位県内の「最高の子育て環境」に惹かれた移住者の方々
柴田 そうそう、ハバタクさんなんかは元々は東京にいたんですけど、田舎で0からビジネスをやりたいと考えているのと、あと子育ての環境も考えているということで当時ウチを見に来てくれましてね。
五城目の保育園を見せたら「東京にこんなに広い保育園ない!園庭もこんなに広いの見たことない!!」とすごく驚いてくれて。
「環境がとても良いしこの建物も気に入ったので、移住します。」とその日に言ってくれたんです。
── おぉーー(笑)。
柴田 「奥さん大丈夫ですか?」と聞いたら「なんとかなると思います」と。それで来ることになったんです。
── そんな経緯だったんですね(笑)。
ハバタク株式会社 秋田オフィス
柴田 秋田にずっといる人間だと、保育園の大きさってあたりまえにでかいと思っているじゃないですか?まぁでかいというよりもそれが普通だと思ってるんですけど。
でも東京ってホント車通ってる道路の側に小さなプランターで花育てて「お花咲いてるね」なんてしていたり。そんなの秋田では考えられない。あとはビルの3階とかに保育園があったりとか。
ゆいまる えー!そうなんだー・・・。
── 僕も以前は東京で働いていましたが、保育園に子供預けるために仕事休んで抽選に行ったり、それに落ちて若いお母さんが仕事辞めざるを得なかったり。そんなのは全然普通ですね。でもそんなのずっと秋田にいる人は信じられないでしょうね・・・。
柴田 そうそう。だから例えば「五城目の保育園ってこんなんだよ」っていうのをWebで見せていくだけでも全然違うんだなと。そういうのは入居してくれる企業さんと関わる中で、ホント最近気付いたことですね。
五城目町には最高の子育て環境があります。そんな魅力を「発見・発信・さらに高める」こと。若者・ファミリー・起業人材などの「移住定住」を促進すること。起業・地域密着型事業・既存産業支援など「町のしごと」を応援すること。少子高齢化率全国一の秋田から、むしろ「子育てするなら五城目へ」という挑戦をしています!
決して成功はしていない。雇用の「その先」が大事。
この施設の取り組みが参考になるところも多そうですね、というお話をすると「決して成功しているわけではないので」と語ってくれた柴田さん。そう考える理由をお伺いしました。
── 雇用が生まれ始めているにも関わらず、まだ成功しているわけではないと。そう思う理由はどこにありますか?
柴田 この施設の誕生によって確かに雇用は生まれました、家族を引き連れて移住してくれたことで移住者も増えました。正直当初は全く想像出来なかったほど順調にきています。
ただ、雇用が生まれた一方で五城目町の人口が減らなかったかというとそうではない。だから決して成功はしていないんです。
我々のゴールは高齢の方が幸せに生きて、子供達ものびのび育って、お金稼いでる人たちも楽しく生きていける。そういう環境を作ること。そこにたどり着くまでに(成功したかの)答えっていうのはなかなか出しづらいなぁと。
まぁただ、私たちはそこを目指していきたいなと思っているんです。
もっと若い人との接点を増やしたい、批判も拾っていきたい。
柴田 あと他にも課題があって、それが20代前半の方をまだ上手く取り込めていないということなんです。そのくらいの方たちって良い意味で社会の見方が安定してないじゃないですか。こういう施設を見たら「もっとこうだったら良いのに」と素直に感じるところがあると思うんです。
── うんうん、ですね。
柴田 そう、僕はね大学生にディスって欲しいんですよ。「何だよこのクソみたいな施設!!!」って。マジでクソだな!!って。
石田 そこまでヒドイこと言う大学生いないよ!(笑)。
一同 あははは!!!(笑)。
柴田 いやー、やっぱり僕らもなるべく気持ちは若く持っていたくてですね。そういう批判の中から改善のヒントを拾っていきたいんですよ。どうすれば若い人たちが興味を持ってくれて、この施設にも「こんちわ〜」て来てくれるのかなぁってね。そこは今後も真剣に考えていきたいですね。
── 凄く良い考えですね。是非是非これからは学生も巻き込んで頂きたいです。お二人とも今日は本当にありがとうございました!
柴田・石田 ありがとうございました!
おわりに
これまでの五城目町にはない魅力を備えたエッジの効いたエネルギッシュな入居企業の存在、地元の人と上手く連携しながら新しい動きを生み続ける地域おこし協力隊の皆さんの存在、そしてそれらの活動の受け皿となった拠点施設BABAME BASEの存在。
それぞれの良さが混ざり合い、1つのプラスが新たな別のプラスの動きを生む。実際に訪れてみて、このBABAME BASE周辺では今そんな良い循環が生まれ始めているんだなと感じました。
「まだまだ成功というにはほど遠い。」
施設に関してそう語ってくれた柴田さんでしたが、地域を盛り上げることに地元民を上手く巻き込み、かつ施設関係者も把握しきれないくらいの刺激的変化をあちこちで生むためのキッカケを作ったであろう、このBABAME BASEに見習うべき点は他の地方自治体や再生を試みる地域にも多くあるのではないでしょうか。
何より今回の訪問ではっきりしたのはどうやらこの町、まだまだこんなものじゃなさそうだということ。荒削りで、だからこそ惹きつけられるものがある、これからの更なる変化の可能性を肌で感じることが出来ました。今後の動きからも目が離せません。
ではでは今回はこのあたりで。それでは!