「想いがあってやっていることなんだって分かってほしいです!」
気がつけば自分にも何か出来ないかと力を貸したくなっている。彼女を目の前にしていると自然とそんな気持ちにさせられます。
今回はあきた舞妓事業を行う株式会社せん代表取締役「水野千夏(みずのちなつ)」さんへのインタビューです。舞妓事業のことから、ご自身の仕事観、そして秋田に対する想いまで。会社の社長として一人の20代の女性として、ざっくばらんにお話して頂きました。早速以下よりどうぞ。
(聞き手・文:カマダダイスケ)
「あきた舞妓」とは?
── 今日はよろしくお願いします。まずはあきた舞妓事業や事業の現状あたりからお話を伺っていきたいなと。
水野千夏(以下、水野) 分かりました。よろしくお願いします。
── では早速「あきた舞妓事業」について。どういったサービスで、どういったものを提供されているのか。改めて教えて頂けますか?
水野 はい。えーと、どうやって言ったらいいかな。サービスとしてはお座敷とか、宴会とか、イベントにあきた舞妓を派遣してそこで踊りを踊ったり、観光PRしたり、依頼された商品の宣伝をしたり。今はそういったことをさせて頂いています。
2015.7.11に秋田市内にて行われた講演会にて撮影
── 踊りを披露することとその後のお酒の席でのオモテナシ・接客。そのあたりが基本セットという感じですかね。
水野 そうです。秋田でお座敷に入られる方って「飲みに行こう!」と来られる方ってほとんどいないんですよ。そうじゃなくてやっぱり接客とか会合でいらっしゃることが多くて、そこに「秋田らしさ」っていうのを入れる為に、太鼓をドンドコ叩くでもないですし、語り部さん呼ぶ訳にもいかないですし…。
お酒を飲みながら、食事しながら楽しむとなったときは「あきた舞妓」という風に。そういうニーズに合わせるように…そうですね、そういうオモテナシを提供させて頂いています。
── なるほど。じゃあ細かい要望(何するか)というのは声をかけてくれるお客様に合わせてという感じ…?
水野 あ、そうですそうです!「会合で来てくれ~」という場合もありますし「記者会見」という場合もありますし。
── 記者会見とかもあるんですね?
水野 話をする方の横にあきた舞妓をつけておきたいとか、そういう感じのやつですね。
── あ、納得です。
水野 あとはー…うん、そうですね。やっぱりお客様の要望に合わせることの方が多いですね。
── なるほど、分かりました。ありがとうございます。
想定外?想像以上?ちょっと変わった依頼の話
── ちなみに「なんかこれ変わったお願いだったな」なんてお仕事、今まで何かありました?
水野 あーそうですね…何かあったかな……。変わったお願い…。
── あ、なかったら大丈夫ですよ(笑)。
水野 うーん……あ、でもやっぱり「ステージ」かな。ステージでPRするのとかはやっぱ変わってるなって思いました。
── ステージ?PR?
秋田を代表してPR?
2015.7.11に秋田市内にて行われた講演会にて撮影
水野 はい。私たちもちろん秋田をPRするということはやってますけど、公の場に立って話すというのはあまり目的としてなかったので…。
── あーそういうことですね。お客さんとの会話の中で話すというのはあるけども…?
水野 そうですそうです!お客さんとの話の中で秋田のお話をするということはもちろんしますけど。でもステージに立って「では舞妓さんから秋田のPRをお願いします!」みたいなのは…あーそういう存在に思われてるんだなって…(笑)。
── 秋田を背負ってるというか、シンボル的な存在に思われてる感じなんですかね?
水野 あ、ホントそんな感じです。知事の代わりに話しているような…(笑)。ただ、想像はしてなかったんですけど「あ、こういうこともさせてくれるんだ!」という感じで嬉しかったですね。でもやっぱりその時は…変わってるなぁって(笑)。あとは…うん、それくらいですかね変わったお願いって。
── 分かりました。変わったお願いではあったけど、嬉しいことですね。
水野 そうなんです、凄く嬉しかったです。
── ですよね。
水野 「おっ♩」っていう感じでした(笑)。
── おっ、って(笑)。
舞妓さんの日常 〜普段はどんなことしてる?
── ところで舞妓さんって今お客様の前で披露されるのが3名、他に見習い生というのも何名かいらっしゃるんですよね?
水野 はい、見習い生も3人います。
── 踊りを披露したり稽古したり以外だと、Facebookの更新なんかもやっているようですが…他には?
水野 あとはお茶(茶道)のお稽古もしています。
── あ、お茶もやってるんですね。じゃあ一日の時間の使い方としては踊りのお稽古、広報のお仕事、あとは勉強…という感じですかね。
水野 はい、そうですね。
── あとは社長(水野さん)と同行して営業なんかもする?
水野 あ、いや。営業……は。昔は一緒にきてもらおうと思ってたんですけど……止めました。
── あ、そうなんですね。ちなみになぜ?
まずは「舞妓として」の仕事を第一に
2015.7.11に秋田市内にて行われた講演会にて撮影
水野 うーん…結局舞妓って夜仕事に出ることが多いので。日中から営業にも同行してもらうともちろん体力的にも大変ですし……あとは営業とかはまだ早いのかなって。
── なるほど。
水野 舞妓として踊りを披露する、というところに精一杯で。自分たちの仕事をお客様に営業する…というのは、うーん…。なんか今は難しいのかなって判断しました。
── うんうん。
水野 ……ちょっと、厳しいですけど…(笑)。
── いえいえ(笑)「舞妓事業とは?」というのを自分の口で一から説明するであったり、それをお客様の前で説明するというのはまだちょっと…
水野 難しいかなと。でもたぶんこのへんは彼女(舞妓)たちも考えて葛藤していることだと思うので。無理に与えるんじゃなくて「やりたい!」って言ったらやらせるように…。今はそういう風にしようと思ってます。
やっぱり一番大事にしてほしいのはお座敷の「舞妓」になってからの仕事なので。そういった仕事をやらせてしまうことで本来の仕事に影響を与えてしまうのは違うなと。
── なるほど。同行させたら気付いてもらえるかな?っていう考え方もあると思うんですけど…それも今はそういう考えがあって止めてるってことですね。
水野 そうですね。
── まぁ…実際1人で全部やってみるようなことをしないと、身に付かないですよね。
水野 身に付かないですね。なので営業は営業部隊にやってもらうと。一人学生でインターンできてくれている子なんですけど、その子には営業してもらおうと思ってますね。企画も一緒にやってもらったりとか。
営業は営業部隊へ
── それはさっき話にあった見習い生の中の1人?
水野 そうですそうです。その子には「舞妓はやらせない」という話をしています。ただ踊りっていうのは厳しい世界なので…そこは実際にお稽古はしてもらって、(厳しさを)感じてもらうようにしています。
私も半年前までにはガッツリお稽古していたんですが踊りやっぱ大変ですし、それを何百人の前で披露するというのは本当に度胸がいることなんです。だからその踊りの大変さも感じてもらいながら、営業はこういうことをやるんだよということを今その子にやってもらってますね。
── 結構大変なことお願いされてますね。でも会社動かしていると色んな役回りは必要になってきますからね。最初は良くても全部社長やってたら大変ですから。
水野 そうですね…。でもだいぶアッコさん(ディレクターの正木温子さん)がカバーしてくれてるので、助かってます。ホントに、凄い助かってます(笑)。
── 事務系とか管理系のこととか。そのへんは一通り今は(温子さんに)お願いしている感じ?
水野 そうですね、共有しながら。今企画も一つやってもらっていて。…はい、少しずつ色んなことをやってもらってます。
── なるほど分かりました。まぁそうですね、作業に関しては自分(社長)が手を動かさなくても回るようにしていかなきゃですね。
水野 そう……うん、そう!そう!!そうなんですよ~~。(しみじみ)
一同 (笑)。
「予約してください!」の営業はまだしたことがない
── 今営業なんかもされてると思うんですけどどういった形でお仕事頂くことが多いんでしょう?例えば直接営業で声をかけたところからが多いとか、Webサイトからの問合せが多いとか…。
水野 正直営業に関しては「予約してください!」のようなお願いって一度もしたことがないんです。「こういったことやってます!」というだけで。
── あ、そうなんですね。
水野 そうです「応援してください!」という感じでお伺いさせて頂いていて。実際に予約を頂くのは(直接の営業先からというよりは)お電話で問合せを頂いて…ですね。
── その問合せはどういう経路というか、パターンが一番多いんですかね?
水野 んー…やっぱり料亭さんとかホテルさんを通して頂くご依頼が多いかなと。
── 「あきた舞妓っていうのがあるらしいよ」「だったらウチで頼んで見ようかな」と、そういう感じ?
水野 そうですそうです。
── なるほど。じゃあ営業やサイトがどうこうってよりは話題が広まって、クチコミで存在が知られて、一度お願いしてみようかと電話で問合せがくるみたいな。…割と自然に身を任せというか、アナログな感じですね。
水野 そうなんです。声をかけてもらってるのは理由もあって。去年はメディアにすごく出させて頂いたんですね。なので正直宣伝をやる必要がなかったんです。だから営業というかご挨拶には行ってましたけど…だから今年はやらなきゃなぁと思ってます。バンバン営業しなきゃいけないなぁと。
── 去年は「秋田にこんなものが出来たぞ!」と話題を聞きつけて「一度利用してみよう」という方が結構いらっしゃったと。
水野 そうですね。
── ちなみに、そういった中でリピートしてくれているお客様というのは?
水野 はい、いらっしゃいます。いくつかのところからは1ヶ月に一回とか使って頂いていて…とても助かってます♩
── その都度「次も呼ぶからまたお願いね」という感じで声をかけて頂くという感じですかね?
水野 そうですね、そういう感じです。
基本的には秋田県内からの依頼
── わかりました。となるとやっぱり県内(秋田県内)からの依頼がほとんどなんですよね?
水野 そうですね、県内がほとんどです。
── メディアの露出が県内とかだけではなく、全国的にされていたじゃないですか?もっと県外から声がかかってるのかなと。
水野 んー…そうですね。でも私たちだけがやってる事業ではないので。やっぱり各地域にそれなりに(お座敷で接待するような存在が地元に)あるので…。だから逆にたまに県外の方からお声がかかることがあるんですけど、そのときは「え、私たちでいいんですか!?」ってなりますね(笑)。
── なるほど(笑)。
水野 うーん、あとはそうですね。お手紙とかは頂きます。「テレビ見たよ!頑張ってね!」とか。でも実際に呼ぶとなると…お金がかかりますし、余程裕福であったり予算があるところでないと難しいかなと…。
── まぁ確かにそうですね…。
どういう仕組み?意外と知らない舞妓さんの派遣料の話
※写真はイメージです
── そういえば今「お金」がかかるという言葉がありましたけど、そういう予算的な話というか。舞妓さんを呼ぶにあたっての費用みたいなところで何か反応はありますか?僕もそうですが、舞妓さん呼ぶって金額的なイメージあまり湧かない方多いと思うんですよ。
水野 そうですよね。舞妓事業を立ち上げるにあたって京都で勉強をさせて頂いたんですけど「ー時間あたりいくら」というのは全国どこも変わらないんですよ。実際はどうかと言うと、安いって言われることもあれば高いって言われることもありますが。
ただ、あきた舞妓の場合お座敷に入ってからの時間で見積もらせて頂いているので比較的安いと思って頂くことは多いですね。他の舞妓の場合移動している時間(交通費)なんかも出向代に入ってくるところが多いんです。
── へ〜そうなんですね!
水野 はい。ただ礼儀として「ご祝儀(出向代とは別に舞妓さんに直接渡されるチップのようなもの)」を納めるんですよ。それが高いんです。実際私たちも舞妓さんとの遊び方を分かってるお客様からは出向代とは別にご祝儀を渡されることもあります。もちろんそれを求めているわけではないんですけど…。
── なるほど。あれ?じゃあそういうときご祝儀というのは受け取らない…?
水野 いや、渡して頂けるものを断るのはお客様に失礼にあたるので。渡していただける場合は有り難く頂戴しますね。
── 分かりました。そんな感じなんですねー。勉強になりました。
いよいよ始動。「会える秋田美人」具現化に向けた取り組みとは?
2015.7.11に秋田市内にて行われた講演会にて撮影
── これ今日凄く聞きたかったことなんですが、一般の方(例えば秋田を観光で訪れたりする方)が「あきた舞妓に会おう!」と思ったときって、今ってどこに行ったら見れるんでしょう?
水野 それが…今はほとんど見れないんですよ…。
── ですよね。
水野 はい。インターネットだと定期的にFacebookをチェックしてもらうとか、あとはイベントに来てもらうとかしかないので…。なので今「会える秋田美人」を実現する為にやっているのが…
── それが「舞妓茶屋」ってことですね。
水野 はい、そうなんです♩
舞妓茶屋で「会える秋田美人」実現へ
株式会社せんでは2015年内に「会える秋田美人」を具現化するために「舞子茶屋」設立に向け準備を進めている
水野 まぁ…うーん…。いっぱい言われてますけどね…(笑)。
── え?何か言われてるんですか?
水野 そんなの上手くいかないって…(笑)。
── えー…全然そんなことないと思いますけどね…(笑)。場所は千秋公園(秋田駅から徒歩10分以内の公園)ですよね?
水野 そうです。「松下」っていう古い建物なんですけど。もともと料亭だったところをリノベーションして使おうとしています。
── 年内(2015年内)に茶屋は開始させようとしていますよね?結構スパンが短いというか、早いですよね?
水野 国に補助金を申請していて、その関係で。
── あ、なるほど。
水野 はい。申請書…用意するのに久々に徹夜しましたね。やーばーい〜〜って(笑)
── なんか目に浮かぶ(笑)。
まずは茶屋設立に注力。その後の展開は様子を見て
── ちなみに「会える秋田美人」を実現させるのは茶屋がその役割を果たすことになってくるのかなと思うんですけど、料亭や旅館などのお座敷の場で会えるものに関しては今後特に見える化はしていかないということですかね?
水野 うーん、そうですね。それもやらなきゃなのかなとは思ったんですけど…今は茶屋の方に専念したいですね。茶屋がどのくらい盛り上がるかにもよるんですけど(見える化してお座敷に出向く方が忙しくなり過ぎると)どっちも対応というのはできないので…ちょっと茶屋の様子を見て、という感じですね。
── 「会える秋田美人」というのは茶屋の方で実現させて、あとはお付き合いのある料亭さんとかで踊りを披露することもあり、そこで会えることもあると。
水野 そうですね。
── なるほど、良く分かりました。ありがとうございます。
vol.1はここまで。まずは舞妓事業の全体像と最近の取り組みについてお話を伺いました。舞妓さんの出向代の話なんかはなかなか聞けない話だったので凄く面白かったですね。
次は舞妓事業を選んだ意外なキッカケ、カリスマ美容家IKKOさんとの出会い等について振り返って頂きます。
(vol.2に続く)
- vol.1:あきた舞妓2年目の挑戦。〜「会える秋田美人」具現化に燃える行動人の素顔に迫る
- vol.2:舞妓誕生を振り返る。カリスマ美容家IKKOさんから学んだ「プロ意識」の持たせ方とは
- vol.3:心の支えは「共感」。皆でやってきて本当に良かった
- vol.4:働くことを通じて伝えたいこと。今の秋田に感じる課題とは?
- vol.5:秋田の良さを具現化し、共感を生み出す。〜あきた舞妓が目指す姿とは
今回お話を伺った方
株式会社せん 代表取締役社長
1988年生まれ。秋田県大仙市出身。2011年に大学新卒で都内の化粧品会社に就職後、2012年に秋田に戻り秋田の食品PR等を行う会社に転職。2014年4月に株式会社せんを設立し、かつて秋田の歓楽街を賑わせていた川反芸者を現代向けにリノベーション「あきた舞妓」として復活させる。現在は「会える秋田美人」を具現化するための事業である舞妓茶屋の設立にむけ奮闘中。
あきた舞妓 -akitamaiko-